昇汞記

うたのゆくへ

原田禹雄 ―うたのくらきともし火― (2)

前衛短歌はひとつの先触れ、短歌にとってはぜひとものりこえられなければならないものとしてあらかじめ存在したといっても過言ではなく、それは山中智恵子の『紡錘』と原田禹雄の『白き西風の花』によって現実にのりこえられた。もっともそれ以降にそのような突出した作品が生まれなかったことは、短歌史にとってとくに悲劇的なことがらではないだろう。というのも短歌とはこの世にはかなくも一瞬のきらめきを発散することができうるだけのものにすぎず、まちがっても永遠の生命をたもったり、世界史にその名をとどろかせたりしうるものではないのだから。前衛短歌の不本意な成果にとってこれらの作品は救いとなったが、短歌界にとっては逆に短歌の限界、その終わりをもたらすものとしてむしろ災いとなったようだが。

  月も落ちプレイアデスも落ちめざめゆくわが眼窠おるびたにねむる夜明砂やみようしや
  麁布あらたえをものうき火熨斗よぎりゆき遠き日花とよびしはなにぞ
  もろもろの島にて頌美ほまれを語りつげよBougie á bouleこそわが薔薇の薔薇
  ればのんの雪あに野の磐を離れんや赭土の墓地に挿すゆきつばき
  たますだれ屍衣より白くねむる夜をみずから纏いゆく愛の繭