昇汞記

うたのゆくへ

ささげもの

降りつもりふりつもらざる記憶の灰/ハヒノキオクを夜へ孵して

撃鉄のおろさるるをり蜻蛉はこめかみのふる軌道を飛べり

血にあらず、セシャイのひぢにゆらめくは骨にあらざるタルマイのほそ

掟の日 虐殺パグロームの槌の音にうかびあがりし意識の断層

永遠とはなれば徴なき身も贖はれわれとふ破局鳴りいづるかも

とりかぶとストリキニーネの朝明けに卓の皿には慈愛カリタスもりて

たぎり立つ鳥なら鳥のいたつきに上げしオクターヴ夜の音

夜ののち 順次運ばれそれらは 黒ずみ苦悶は 「永劫ようごふ」を掘る

砂に充ち、境界にみちて 夜のための蝶番となるアラム・ナハライム

幽閉のゲットーの宵に朧月ミリアム鳴らすタンバリンの膜

騾馬るるホッテントットを引用しα崩壊へ荼毘弟ダヴィ冷ゆを

いつしかとあらますときもあらなくに霹靂かみときは落つわごむくろへ

臨死にも皐月の風をまきつけてエシコルの谷にきざす光

指折りて砂を数ふる歳月にアザゼルの方へ山羊は歩めり

パダンアラム割礼おびし痛苦の匣jewジューの軌跡へ雪のパロール