昇汞記

うたのゆくへ

義人

髪ふかく失墜ふかくありけるを雨ふるやうに 「エル」 われは

土ならつちたまならたまへかへさむと生ける傷痕さらにおぎなむ

唄はるるものうたはれざるもののはざまに 〈揺らぐ〉われらなきわれらは

ながき死のそのたまさかの消長に着色すべき火、喪服、悪寒

喉に沈む太陽とレプラを眺めつつ発熱しつつ吾は通過せり

消化器のガラス張りの一室にたまの鉗子とひと匙の麻痺

うるはしき毛細血管をたづさへて遺骨を踏みてみんなみすぎぬ

脱腸と痴呆のはざまにひひらけば失禁のまにま悼む自画像

汝とふ失はれし貌をよそほひて 三人みたりのわれ仕置場に立てり

咽ひとつ潰してわたる焼野原おぎろなきかな声なき地はも
  
無限行 膝から下も消えはてて 《万軍の主》は永久戦争

投身のあさまだきの石楠花のほのゆらぎつつあかく裂けゆくを

まぶしもよ袂に結ぶ麦の穂もマルキエルの嗣業となりぬ
 
心臓のはじけるまにま過てる距離のさなかに咲くベラドンナ

うつそみのわれらの寿衣じゆいはあきらけく闇ふかくあれかがよふまでに